Drift Ice: Minehama (2017-)
毎年知床・斜里にやってくる流氷。「流れる氷」、英語でいうと「drift ice」、その名前から想像するのは、どこか遠くの場所から海流と風に乗ってそのままの姿で流れてくる、たくさんの小さな島のような氷の板。凄まじい力を持つ、人間や鹿が乗っても割れないほど固く厚い存在であるのは事実なのだが、最初からそのような姿ではない。氷の泥から始まり、時間をかけて、国境を超えて、何キロもの距離を辿って、その間の全距離の海の宝物を吸収して、やがてこの知床半島の付け根に当たる斜里町へと、私たちの知っている姿になってやってくる。そして春になると、そのまま、オホーツク海に溶けて、沢山の栄養分を残して消えていく。このような流氷は、人間の概念で言ってみれば、もっとも自由な精神を持つ自然現象ではないか。さらにそれは、人間にとても似ているのではないか。遠くからやってきたものだが、この土地に住む動物や人間、自然のサイクルにとって欠かせないものになっている。人間は動物と同じように、移動しながら場所を探し、辿り着いた場所と向き合いながら住み、やがて消えていくが、流氷のように、栄養分と精神と遺伝子を残し、その場所の歴史や文化を作る。毎年、流氷の変化とともに、自然と人間が次の季節に向かって、日に日に変わって行くことを眺めると、この土地の持つ生命力に感心し、希望と喜びを感じる。
©︎ Elena Tutatchikova 2024