「"知床:干潮を待つ, #1」
"Shiretoko: Waiting for Low Tide, #1"
c-print
90.5 cm x 110 cm
2020
「"知床:干潮を待つ, #1」
"Shiretoko: Waiting for Low Tide, #1"
c-print
90.5 cm x 110 cm
2020
Land and Beyond|大地の声をたどる
two-person show with Yoichi Kamimura at POLA MUSEUM ANNEX (Tokyo)
curated by Yukiko Shikata
July, 7 - August, 29, 2021
Photo by Hibiki Miyazawa (Alloposidae LLC)
「Land and Beyond|大地の声をたどる」
Pola Museum Annex is pleased to announce the opening of a duo exhibition entitled “Land and Beyond,” by artists Yoichi Kamimura and Elena Tutatchikova.
Throughout his career, Yoichi Kamimura has used his field recordings taken around the world – primarily at sea – to create unique auditory installations. Kamimura’s drawings, video works, performance art collaborations, and other endeavors revolve around sound; his extensive body of work reveals his unerring desire to grasp a fluctuating world by way of his own sense of sound, and his own body.
Elena Tutatchikova uses the act of walking as a medium of artistic expression. As she ambles, she collects stories of people and of nature from different parts of the world – compiling those stories into installations made up of photographs, video works, texts, drawings, and other media. Tutatchikova additionally hosts interactive walking workshops and composes works of music and of writing; she transcends the borders of expression, and places emphasis on the process in which language and story comes to life.
Both Tutatchikova and Kamimura have a connection to and have created works centering around the Shiretoko peninsula of Hokkaido, located in the northern reaches of Japan. ”Land and Beyond” collects the two artists’ most recent endeavors in this region, while concurrently presenting an intersection of their worlds and aesthetics. The land of Shiretoko represents a springboard for this discourse, but the exhibition also goes beyond the region itself – calling the viewers’ attention to the more universal relationship between land and people.
The exhibition welcomes Yukiko Shikata – who pursues her own research surrounding Shiretoko and Japan’s northern reaches – as guest curator. “Land and Beyond” is the product of her and the artists’ discourse surrounding their stay in Shiretoko and more.
「Land and Beyond|大地の声をたどる」ー世界との新たな関係へ
エレナ・トゥタッチコワは、2014 年に知床と出会って以来、何度もこの土地に赴き滞在する中で、歩くことと思考することとの関係性を醸成させてきた。現地では峰浜や 朱円地区で人々と過ごし、周辺の浜辺や道、森を繰り返し歩くことで、自然と人々そして自身が相互浸透するような状態へと至った。土や水、植物、動物、人間などあらゆる存在がそれぞれの言語で土地の物語を表現している、とトゥタッチコワは言う。彼女は歩くことにより、それらに耳を傾け考えるという循環を経て、どこにもない図や言葉を生み出していく。
上村洋一は、フィールド・レコーディングを通じて海の波音や光、匂いに向き合う中で、世界が常に変化し流動していることを身体で感じてきた。かねてから流氷に惹かれ、2019 年冬にフィールド・レコーディングのため知床を訪れる。厳寒の夜、流氷の上に佇み漆黒の闇にマイクを差し出す上村は、その行為を「瞑想的な狩猟」と呼ぶ。じっと知覚を研ぎ澄ませつつ時間を過ごすプロセスは、周囲に広がる自然、そして遠方から訪れた流氷と交感するかけがえのない体験としてあるだろう。
「Land and Beyond|大地の声をたどる」は、それぞれの思いで知床と向き合ってきた上村とトゥタッチコワの最新の歩みを、ひとつの空間において交差させる初の試みである。
北の大地(ランド)の厳しい自然、岩がちな知床の 土地(ランド)。そこには人々や動植物が、生き生きと着実に根ざしている。トゥタッチコワにとって知床は、人々と自然がコミュニケーションを繰り広げる土地であり、思考のフィールドであり、物語が生成する現場である。上村にとって流氷は、冬に現れ、しばし留まり春には消滅してしまうエフェメラルな存在「仮の大地」(上村)としてある。
そしてその消滅は、次第に加速している。上村はまた、現れ消滅する「仮の大地」のイメージを生まれ育った東京湾の埋立地域に接続する。温暖化や埋立地という、自然と人工の境界が曖昧になる地平から「大地」を思い、聴こえる音と知覚できない現象のグラデーションの只中に、自身を浸透させていく。
知床という名は、アイヌ語の「シリ・エトク(大地の突端)」に由来する*。かつてこの地は海を介して各地とつながり、オホーツクやアイヌをはじめさまざまな人々が文化を育んできた。流氷もまた、大陸のアムール川を源にオホーツク海で形成され、遥々知床に漂着する。人と流氷は似ているように思われる。いずれもここにたどり着き、しばし留まりいつかは消えていく。さまざまな情報の流れがミクロ・マクロの時間や空間の中で、時には形を成しながら変化しつづけている。大地もそのひとつであるだろう。
「Beyond」は、固定的な大地の概念を、想像的に越えていく可能性である。「今ここ」だけではない、過去や未来につらなる時間や、空間的に延長されうる地や存在へと。上村とトゥタッチコワは、それぞれの方法で知床の大地に寄り添い、その声をたどろうとする。それは大地と海、歩行と思考、自然と人工、知覚できるものとできないものの間へと向けられている。
本展は、自然や人工の音(波動や振動も含む)、この地の人々の営みや声、知覚を超えた存在の気配や痕跡で溢れている。会場を歩き、時に佇みながらそれらを感知・探索することで、世界との新たな関係可能性(Beyond)を開いていくことが、訪れた各人に委ねられている。
四方幸子/本展キュレーター
*シリ・エトコともいう。シリ(sir)は、陸地・大地を、エトコ(etoko)は突端を意味する。
エレナ・トゥタッチコワ 作品解説
「Drift Ice: Minehama」
海に浮かぶ真っ白な島のような春先の氷は、独立した意識をもつ不思議な生き物のようだ。刻一刻変化する流氷の間を小さな船を漕ぎながら風景を眺め、流氷が知床半島まで辿ってきた海路、その形になるまでのプロセスを想像する。風景の認識は、天気、光、音などを含めて変化するものとして、体内に蓄積していく中で生成する。春先の流氷はこのような自然の変化、風景の変化、またその認識の変化の象徴であるのではないかとトゥタッチコワは考える。
「ひつじの時刻、北風、晴れ」
トゥタッチコワが2014-2018年の間、知床半島の付け根に位置する峰浜へ何度も通い制作した写真シリーズ。海別岳(うなべつ岳)麓にあったパン屋 メーメーベーカリーに滞在し、人々と関わり、森や山道、時には海の道も歩いたパーソナルな経験がもとになっている。峰浜での日々が、知床の全ての道の起源である。そこで制作した作品から。知床を歩くプロジェクトが派生し、開拓時代から痕跡が残っている古道を辿る作品などへとつながっていく。
「干潮を待つ」
2019年よりトゥタッチコワの作品には、海の道や潮汐というテーマが、詩、映像、写真などとして現れる。水の中を歩き、海中の石を積み重ねる。干潮を待ち、現れてくる海底をたどる。満潮時に見られない地層、割れ目に生える海中の森、生息する様々な生き物を観察していると、地球という一つの大きな生き物の呼吸が聞こえてくる。今回は、潮汐の時間をはかり、何度も訪れてきた場所で撮影した写真作品やインスタントフィルム写真を展示する。
「たねと大潮」
2021
video (33 min.)
雪が溶け、山や森、海の中では様々な植物が芽生えてくる。その土地で大昔から自生する原種や、遠くから運ばれてきた帰化植物など、ゆっくりと観察しなければ気がつかない地味なものも多い。全ての生き物に名前を与えるのが人間だが、実際にその名や、土地と人間についての物語を教えてくれるのは植物たち自体ではないか。
©︎ Elena Tutatchikova 2024